モハメド・エラリアン氏が、英国の外交・安全保障を扱うポッドキャスト「One Decision」(2026/10/1)に出演していました。今回のインタビューでは、世界的な債券市場の不安定化から、米国の財政問題、AI、米中関係、エネルギー、そして今後の国際秩序まで、幅広いテーマが取り上げられていました。以下では、気になった3つの論点について議論を要約しています。

1.気になった論点

①構造的不確実性
エラリアン氏は、現在の不確実性について、一時的なショックによるものではなく、経済や金融を取り巻くシステムそのものが変化することによる「構造的不確実性」だと指摘しています。
その大きな背景にあるのが、経済と政治・地政学との関係の変化です。これまでの世界では、経済合理性が経済政策を決める重要な要因となっていました。しかしながら、現在では、地政学、国内政治、国家安全保障などが経済政策を左右し、その経済的な結果が再び政治や地政学に影響を及ぼすという関係が強まっているとしています。エラリアン氏はこれを、エコノミクスからジオエコノミクスへの移行として捉えています。

こうした構造変化が金融市場に現れている例として、世界的な長期債の売りをあげており、その背景には、大きく4つの要因があると説明しています。

1つ目は、「長期債の売り手と買い手の構造的な不均衡」です。政府は大きな財政赤字をファイナンスする必要があり、AI投資を進める巨大テクノロジー企業も多額の資金を必要としています。その一方で、これまで長期債の安定的な買い手だった海外投資家の状況は変化しています。中国は地政学的な理由から米国債への依存を減らそうとしており、日本にも国内事情があります。湾岸諸国でも国内投資の必要性が高まっています。つまり、長期資金を必要とする主体が増える一方、それを安定的に供給してきた主体が弱くなっているとしています。
2つ目が、「中東情勢と原油価格をめぐる不確実性」です。中東情勢の先行きが見通しにくく、それによって原油価格が大きく変動する可能性があるとしています。
3つ目が、「インフレと中央銀行」です。財政政策による対応が十分でなければ、インフレ抑制の負担が中央銀行に集中し、金融引き締めへの圧力が高まります。
そして4つ目が、「債券市場におけるヘッジファンドの存在感の高まり」です。これによって市場価格が上下双方にオーバーシュートしやすくなっていると指摘しています。

以上のように、現在の債券市場の不安定化は、一つのニュースによって生じた一時的な現象ではなく、財政、資本フロー、地政学、インフレ、市場構造の変化が重なった結果として捉えられています。

②“Our yields, your problem”
米国の長期金利上昇は、米国内だけの問題ではないと指摘しています。
エラリアン氏は、1971年に米財務長官John Connallyがドルについて述べたことで知られる「Our dollar, your problem」という言葉になぞらえて、現在の状況を、“Our yields, your problem.”と表現しています。米国債は世界の金融市場の中心にあるため、その利回りが不安定になれば、他国の金利にも影響します。
エラリアン氏が特に言及しているのが、英国、フランス、日本です。重要なのは、こうした問題が新興国ではなく、世界の金融システムの中心に位置する先進国で生じていることです。そして米国には、基軸通貨であるドルと世界最大規模の金融市場があります。そのため他国より長く財政的な無理を続けることができます。
だからこそ他国は米国が財政問題を解決してくれるのを待つべきではないとしています。

一方で、エラリアン氏は、米国経済を単純に悲観しているわけではありません。むしろ米国には、世界でも例外的な強みがあるとしています。それが、大規模なイノベーションを資本市場によってファイナンスできる能力であり、その代表がAIです。AIには、医療や教育など個別分野を改善する可能性があります。それだけでなく、生産性そのものを引き上げ、潜在成長率を高める可能性もあります。さらにAIは単なる汎用技術ではなく、新しい発明そのものを生み出すマシンになり得るとしています。

③グローバリゼーションから分断へ
こうした変化は、どの国が世界経済の中で有利なのかという条件も変えていると指摘しています。
グローバリゼーションが進んでいた時代には、シンガポールのような、小さく、開放的で、機動力があり、世界経済を利用して国内経済を成長させられる国が大きなメリットを得ることができました。
しかし世界が分断へ向かえば、条件は変わります。その場合に強みを持つのが米国です。巨大な国内市場を持ち、エネルギーを自給・輸出でき、強い民間部門と起業家精神を持っているからです。つまり、世界経済のゲームが変われば、国の競争力を決める条件そのものも変わるとしています。
中国についても同じ視点から考えています。中国の問題は、国内需要中心の経済へ移行する能力の有無というよりも、輸出によって国内需要の弱さを補うことができるため、現時点ではそうする政治的インセンティブが十分ではないことであると見ています。その結果として中国の輸出圧力が欧州やアジアへ向かえば、新たな摩擦が生まれるとしています。

では、この先の世界秩序はどうなるのでしょうか。エラリアン氏は、かつてのグローバリゼーションへそのまま戻ることは難しいとして、現在は、国際秩序をめぐって大きく3つの考え方が競合していると整理しています。

1つ目は、米国が中心となる秩序を維持しながら、米国自身の利益を以前より強く重視する方向。
2つ目は、中国が多国間主義の擁護者として役割を拡大する方向。
そして3つ目が、EU諸国、カナダ、ブラジルなどのミドルパワーが、問題ごとに柔軟な有志連合を形成する方向です。

どの形も十分に機能しなければ、世界はさらに分断へ向かい、そして分断が進めば、構造的不確実性はさらに大きくなる。そうならないためには、管理された緩やかなグローバリゼーションを出口としてあげています。

2.上記について思うこと

今回のインタビューで特に印象に残ったのは、エラリアン氏が現在の世界を悲観的あるいは楽観的に予測しようとしているのではなく、「世界を動かしている構造そのものがどのように変化しているか」に着目していたことです。分断、ジオエコノミクスといった構造変化を認識したうえで、特定の未来を当てようとするのではなく、起こり得る複数のシナリオを想定し、その中でどのように備えるかを考える。今回のインタビューは、そうした考え方がよく表れているのではないかと思います。

また、世界の構造をつかんだ上で、本質的なアジェンダを設定する慧眼には、あらためて感心しました。そういうふうに整理するのかというお手本を見ることができ、非常に学びが多い内容でした。2023年に出版された“Permacrisis”についても読んでみたいと思います。

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ダブルデッカー
ファイナンス修士/元銀行員・FP。自身の学びを深める場として運営している個人サイトです。グローバル金融を中心として、勉強会で発表するイメージで、学んだことや考えたことを自由に発信しています。ご意見・ご連絡はX(@DoubleDeckerFP)まで。