Financial TimesのAlphaville編集者であるRobin Wigglesworth氏が、Top Traders UnpluggedのIdeas Lab #53(2026/9/16)に出演していました。今回のインタビューでは新著『A Fabulous Debt: The Epic Story of How Bonds Built the Modern World』をもとに、約1000年にわたる債券市場の歴史について議論しています。インタビューの冒頭でホストのKevin Coldiron氏は、この本から読み取った大きなテーマを2つ挙げています。一つは、十分に機能する債券市場が借入を国家の力に変え、戦争やインフラ整備などに必要な資金を供給できるようにしたこと。もう一つは、その力が、債券をどのように発行し、保有し、取引するかという「技術」の発展と結びついてきたことです。

以下では、印象に残った5つの論点について議論を要約しています。

1.印象に残った論点

①債券市場は借金を国家の力に変えた

Wigglesworth氏は、近代的な債券市場の起源の一つとして12世紀のヴェネツィアを取り上げています。
当時のヴェネツィアは地中海交易によって豊かになっていましたが、国家そのものが自由に使える資金は限られていました。ビザンツ帝国との対立から大規模な艦隊を編成する必要に迫られた際、従来のように一部の銀行家から借りるだけでは必要な資金を調達できませんでした。

そこで政府は、市民の財産に応じて資金を強制的に徴収しました。ただし、単なる税ではなく、政府が5%の利息を支払い、その債権を他人へ譲渡できる仕組みを設けました。軍事遠征そのものは失敗し、政府は元本を返済できなくなります。しかし、その結果として債権は長期的に利息を生む資産となり、売買されるようになりました。さらに、商取引の担保としても利用されるようになります。固定された利払いがあり、第三者に譲渡できるという、現在の債券につながる性質がここに現れています。その後ヴェネツィアは、個別に存在していた債務をまとめ、より均質な債務へと整理していきました。これによって売買もしやすくなります。Wigglesworth氏は、自由に取引でき、均質で、固定された利払いを持つという、現在の債券市場につながる基本的な形が徐々に出来上がったと説明しています。

ここで重要なのは、債券が単なる政府の「借金」ではなく、社会に存在する富を国家の活動へ動員する仕組みになったことです。市民の富→債券市場→国家の資金調達→戦争・インフラ・国家運営、という資金の流れが生まれました。債券市場の発達によって、国家が利用できる資金は、その時点で保有する税収や財産だけではなくなったことになります。

②強い国家と強い債券市場は相互に支え合う

ヴェネツィアで生まれた仕組みは、その後オランダ、そしてイギリスへと発展していきます。
オランダでは、国家や都市だけでなく企業なども債券を発行し、国外の投資家にも売買される市場が形成されました。イギリスはこうしたオランダの金融制度を取り入れ、より統合された国債市場を発展させていきました。

ここで重要になったのが、誰の信用を背景として債券を発行するのかという問題です。絶対王政のもとでは、国に資金を貸すことは実質的に国王個人へ資金を貸すことに近いものでした。これに対してイギリスでは、名誉革命以降、財政に対する議会の権限が強まり、国王個人ではなく国家として債務を負う仕組みが形成されていきました。政府財政の透明性も高まっていきます。
こうした制度への信頼によってイギリスは海外からも資金を調達できるようになり、大規模な債券市場を形成しました。Wigglesworth氏は、イギリスがナポレオン戦争を長期間戦えた大きな理由の一つも、その資金調達力にあったと説明しています。
やがて英国債は国外でも信頼され、価値保存や決済にも利用されるようになります。Wigglesworth氏は当時の英国債市場を、現在の米国債市場に近い存在として説明しています。

Wigglesworth氏が調査するなかで意外だったと述べているのが、債券市場と政治制度との関係です。同氏は、強い債券市場→強い国家→強い債券市場という正のフィードバックが存在すると考えています。
投資家から安定的に資金を借りるためには、国家が信用されなければなりません。そのためには、財政状況を明らかにし、権力を一定程度制約し、債権者が「貸した資金が恣意的に扱われない」と考えられる制度が必要になります。
実際、プロイセンがロンドン市場で資金を調達しようとした際、ロスチャイルド家から国王の権力を制限することや財政情報を公表することを求められた事例も紹介されています。
Wigglesworth氏は、債券市場が民主主義を生み出したとまで主張しているわけではありませんが、債券市場が欧州で透明性や政治的なチェック・アンド・バランスを広げる方向に働いた側面はあったとしています。

つまり、国家の信用→資金調達力→国家の力→信用の向上という循環がある一方で、資金調達の必要性→投資家からの信頼→財政の透明性・政治制度の整備という逆方向の力も働いていたことになります。国家が債券市場を発展させただけではなく、債券市場もまた国家のあり方を変えてきたという点が興味深く感じました。

③Eurobond市場は国境を越えて資本を動かした

債券市場の歴史は、国内の貯蓄を集める仕組みから、国外の資金も集め、さらに国境を越えて資本を動かす仕組みへ発展してきたと見ることができます。

インタビューでは、第二次世界大戦後に形成されたEurobond市場についても取り上げられています。戦後、米国から欧州へ資金が流れ、世界各地に米ドルが蓄積されるようになりました。ブレトンウッズ体制のもとでドルが国際金融システムの中心に位置する一方、世界に流出したドルのすべてが米国内へ戻ったわけではありません。海外の銀行にもドル預金が蓄積され、こうした米国外に存在するドルがEurodollarと呼ばれるようになります。

一方、戦後の欧州企業が資金を調達する場合、資本市場が発達していた米国へ行ってドル建て債券を発行し、そこに欧州の投資家が資金を出すという状況も生じていました。
そこでロンドンの金融機関などが、海外に蓄積されたEurodollarを利用して、米国外でドル建て債券を発行・取引する市場を発展させました。これがEurobond市場です。名称に「Euro」とありますが、ユーロ建て債券という意味ではなく、発行国や通貨の国内市場の外側で発行・取引される、国際的な債券市場です。

Wigglesworth氏は、Eurobond市場を債券市場が国境を越えて発展した重要な段階として捉えています。ヴェネツィアでは市民の富を国家へ動員し、イギリスでは国外の投資家まで取り込むことで国家の資金調達力を拡大しました。そしてEurobond市場では、世界各地に存在する資金が、国境を越えた債券市場を通じて世界各国の政府や企業へ流れるようになります。この市場は、戦後のロンドンが国際金融センターとして復活するうえでも重要な役割を果たしました。
1980年代のビッグバンがロンドン金融市場復活の大きな転換点として語られますが、Wigglesworth氏は、それ以前の1960年代から、債券市場を通じてロンドンの復活は始まっていたと説明しています。

④Michael Milkenは新たな債券市場をつくった

Michael Milken氏と米国のジャンク債市場も取り上げられています。

Milken氏が学生時代に注目したのが、Braddock Hickmanによる社債のデフォルトに関する研究でした。信用格付けの低い企業は、格付けの高い企業よりデフォルトしやすい一方、その分だけ利回りも高くなります。十分に分散して保有すれば、デフォルトによる損失を考慮しても高いリターンを得られる可能性があることが示されていました。ただし、当時の低格付け債の多くは、もともと投資適格債として発行され、その後格下げされた、いわゆるフォーリン・エンジェルでした。

Milken氏が行ったのは、単にこうした低格付け債を買うことではありません。最初から低格付けの企業が高利回り債を発行し、資金調達できる市場そのものをつくりました。Wigglesworth氏は、この点を金融市場の重要な性質と結びつけています。仮にHickmanの研究を理解した100人の投資家がいたとして、99人は低格付け債を買ってリスクプレミアムを得ようとしたかもしれない。しかしMilken氏は、その知識を使って新しい市場をつくった。その結果、分析対象だった市場そのものが変化したと説明しています。

Wigglesworth氏は、ここから金融を物理学のように扱うことの危うさにも触れています。自然科学では、同じ条件で実験すれば同じ結果が得られることがあります。しかし金融市場では、ある規則性が発見され、多くの市場参加者がそれを利用すると、市場そのものが変化します。
Milken以前のデータでは、低格付け債の多くがフォーリン・エンジェルでした。しかし、新規発行のジャンク債市場が形成されると、それまで資本市場から資金を調達できなかった企業まで債券を発行できるようになります。市場参加者の行動によって、分析対象となる市場の性質そのものが変わったわけです。Wigglesworth氏によれば、現在でもハイイールド債にはリスクプレミアムが存在するものの、Hickmanが研究した時代ほど大きなものではありません。さらにWigglesworth氏は、Milken氏がつくった市場を現在のレバレッジド・ファイナンスの源流として捉え、プライベート・クレジットについてもその延長線上に位置づけています。

ヴェネツィアとMilken氏の話は一見まったく違うように見えますが、共通するところがあります。ヴェネツィアでは、債権を固定利払いで譲渡可能にすることで、市民の富を国家へ動員しました。Milken氏は、低格付け企業が新規に債券を発行できる市場をつくることで、それまで資本市場へのアクセスが限られていた企業へ投資家の資金を流しました。どちらも、債券の仕組みを変えることによって資本の流れそのものを変えた事例と見ることができます。

⑤現在の米国債市場について

スコット・ベッセント財務長官のもとで拡大された米財務省による国債の買戻しについても議論されています。

ホストのKevin Coldiron氏は、米財務省による国債の買戻しを、米国債市場におけるヘッジファンドの役割、特にベーシストレードとの関係から捉えています。ベーシストレードでは、ヘッジファンドなどが現物の米国債を買う一方で先物を売り、両者の小さな価格差から収益を得ようとします。価格差が小さいため、一般に大きなレバレッジを利用します。
そのためこの取引には二つの側面があります。平常時にはヘッジファンドが米国債の買い手となり、市場へ流動性を供給します。一方、市場のボラティリティが急上昇すると、レバレッジを縮小するためにポジションの解消を迫られ、それ自体が市場の不安定化につながる可能性があります。
Coldiron氏は、ベーシストレードを、平常時には流動性を供給する一方、ボラティリティ上昇時には弱いというキャリートレードの性質を持つ取引として捉えています。そこから、財務省による国債買戻し→国債市場のボラティリティを抑える→ヘッジファンドがポジションを維持しやすくなる→米国債の買い手を維持する、という仮説を提示しています。ただし、Coldiron氏自身、この説明を裏付ける十分な証拠があるわけではないと留保しています。

これに対するWigglesworth氏の見方はかなり厳しいものでした。買戻しを10倍に増やしたとしても、米国の資金調達規模からみれば大きな効果は期待できないと考えています。財務省が既発債を買い戻すためにも資金が必要であり、政府支出そのものが減るわけではないからです。たとえば、短期のトレジャリービルを発行して長期債を買い戻すことはできます。
しかし、それは長期債を減らす→短期債を増やすという債務構成の変更であって、政府全体として必要な借入額そのものをなくすものではありません。米国政府の資金調達規模が非常に大きい以上、買戻しだけで需給問題を根本的に変えることは難しいというのがWigglesworth氏の見方です。
一方で、ベッセント財務長官が市場のボラティリティを抑えようとしている可能性については、Wigglesworth氏も一定の理解を示しています。2025年の解放の日の後には、米国債市場でスワップ・スプレッドの巻き戻しが起き、ベーシストレードへの波及も警戒されました。大量のレバレッジを伴う取引だけに、市場が急変してポジションの巻き戻しが起きれば、米国債市場そのものへ大きな影響を及ぼす可能性があります。財務省が、国債市場のボラティリティ上昇→レバレッジ取引の縮小→米国債売却→さらにボラティリティ上昇、という連鎖を警戒すること自体には理由があるということです。
ただしWigglesworth氏は、今回の局面ではそこまでボラティリティが高まっていたわけではなく、市場がより問題にしていたのは、インフレが従来想定より長く高止まりする可能性や、金融政策に対する信認だったと考えています。

ここで議論は財務省からFRBへ移ります。Wigglesworth氏は、長期金利上昇の背景に金融政策への信認の問題があるのであれば、財務省が国債を買い戻すより、FRBが必要であれば利上げも辞さない姿勢を示す方が直接的だと考えています。一見すると、政策金利を引き上げれば住宅ローン金利も上昇しそうに見えます。しかし、市場が「FRBはインフレを抑える意思が弱い」と判断すれば、将来のインフレリスクを織り込んで長期金利やタームプレミアムが上昇する可能性があります。反対に、中央銀行が物価安定への信認を回復できれば、政策金利を短期的に引き上げても、長期金利に上乗せされているインフレリスクプレミアムが低下する可能性があります。
Wigglesworth氏が問題視しているのは、財務省による市場操作そのものというより、債務管理の技術だけで根本的な問題に対応しようとすることの限界だと理解しました。買戻しによって市場機能を改善したり、特定の年限の需給を調整したりすることはできます。しかし、政府がどれだけ借りる必要があるのかという問題まで消すことはできません。

2.上記について思うこと

今回もっとも興味深かったのは、債券を「政府や企業がお金を借りるための商品」としてではなく、社会に存在する富と、資金を必要とする国家や企業を結びつける金融技術として捉えていることです。この見方に立つと、ヴェネツィア、大英帝国、Eurobond、ハイイールド債、ETF、トークンまでを一つの流れとして理解しやすくなるように感じました。

Michael Milken氏のジャンク債市場創設については、Milken氏とドレクセルで働いていたLeon Black氏が、その後Apollo Global Managementを創業し、現在のプライベート・クレジットへとつながっていることを思い出しました。『Money to Burn』(2026年9月出版)の著者William Cohan氏も、別の番組でアポロの源流としてドレクセルを位置づけていました。また、本論とは少し外れますが、以前Milken氏がThe David Rubenstein Showに出演した際、ジャンク債部門をウォール街からロサンゼルスへ部署ごと移転して業務を行っていたという話も印象に残っています。Coldiron氏もWigglesworth氏も、Milken氏を非常に興味深い人物として捉えているようでした。Milken氏については様々な評価はあるようですが、今日のハイイールド債市場の礎を築いた影響を考えると、両氏の評価について頷ける気がします。

また、Kevin Coldiron氏の国債買戻しに関する仮説を聞いて、CrossBorder CapitalのMichael Howell氏も似た見方を示していたことを思い出しました。
Howell氏も、ベッセント財務長官による買戻しの目的は金利を下げることではなく、債券市場のボラティリティを抑え、債務の借り換えを円滑にすることにある、という趣旨の話をしていました。現在の金融市場の本質は債務の借り換えにあり、米国政府は金利が上昇している長期ではなく、短期の借入を増やすことで対応する可能性が高いとしています。高齢化や国家間競争を考えれば歳出削減も容易ではなく、本質的には「時間を稼ぐ」政策だという見方です。こうした状況を理解するには流動性メカニズムを押さえる必要があるとして、レポ市場のSOFRスプレッド、債券市場のMOVE指数とタームプレミアムの3つを注目すべき指標として挙げていました。

債券市場の歴史を振り返ると、債券の「技術」は国家や企業の資金調達力を高める方向へ発展してきました。一方、現在の米国債市場の議論からは、市場の仕組みを工夫することで流動性や安定性を改善することはできても、政府が必要とする資金そのものをなくすことはできないという、もう一つの側面も見えてきます。

今回のインタビューは非常に質が高く、学ぶところが多くありました。新著『A Fabulous Debt』についても読んでみたいと思います。

ABOUT ME
ダブルデッカー
ファイナンス修士/元銀行員・FP。自身の学びを深める場として運営している個人サイトです。グローバル金融を中心として、勉強会で発表するイメージで、学んだことや考えたことを自由に発信しています。ご意見・ご連絡はX(@DoubleDeckerFP)まで。