A1.金融リテラシー

不動産と株式の投資パフォーマンスを比べるための考え方

前回の記事『持家と賃貸の比較』では、「いずれの場合であっても“効果的な資産運用ができているかどうか”が大切」と書きました。そこで当然、「不動産と株式の投資パフォーマンスをどうやって比べるのか?」という疑問が出てくると思います。今回の記事では、そうした比較をするための考え方についてご紹介したいと思います。(なお、以下では投資のリターンのみに着目して議論をしています。)

1.収益率を比べる

考え方を一言でいうと、「収益率を比べる」になります。収益率は下記の通り計算できます。

収益率=利益÷投資額×100 (ただし、1年複利とする)

収益率は難しい概念ではなく、ただの常識です。あえて意味合いを説明するなら、「1年あたりのお金の増加率」ということになります。収益率1%は「この投資をすると、1年間という時間でお金は1%増加する」ということを表しています。例えば、今日の100万円は1年後に101万円になります。1年複利ですので、2年後には101万円に1.01をかけた金額になります。収益率が大きいほどお金が速く増えることになります

(ただし、「収益率では規模を表現できない」という点もおさえておく必要があります。投資対象の規模感が異なる場合には、利益の大きさを比べる等も必要です。逆に、規模が同じであれば比較は容易になります。)

具体的な比較においては、予想される収益率(以下、予想収益率)を比べるということをします。すなわち、「不動産と株式の両方について予想収益率を算出して比べれば、どちらがお金を速く増やしてくれるかわかる」という考え方です。例えば、不動産Aへの投資は予想収益率5%であり、株式Bへの投資は予想収益率7%とわかれば比較可能になるわけです。もちろん、実際にはそれぞれが持つリスクについても十分検討した上で、総合的に判断する必要があることは言うまでもありません。(不動産と株式のリスクの大きさは違いますので、比較にあたってはリターンだけでなく、リスクの違いを考慮する必要があります。)

以下では、もう一歩踏み込んで”予想収益率を算出するための考え方”や”根拠となるファイナンス理論の基礎概念”について紹介しています。

2.予想収益率を算出する

算出のための考え方を一言でいうと、「予想収益率をr%とおいた方程式を立てて解く」ということになります。具体的には以下の通りになります。

まず、投資という行為によって、現在時点の初期投資額が、将来時点のバラバラのキャッシュフローに変わるという状況を考えます。
そして、予想収益率をr%とおきます。すなわち、この投資によって、初期投資額は年率r%の1年複利で増えていくと予想していることになります。

次に、①~③を行い、方程式を立てて解きます。
①将来時点のすべてのキャッシュフローを特定する。
②①についてそれぞれ現在の価値に割り戻す。その際に、予想収益率r%を使う。
③②を合算したものを初期投資額とイコールで結んで方程式を立てる。その後、これを解く。

①ですが、不動産物件を購入すると、賃料収入が毎月ありますし、売却時には別途収入がはいってきます。株式を購入すると、配当がそれぞれの時点でありますし、売却時には別途収入がはいってきます。そうしたバラバラに発生するお金の流れ全体を特定するということを行います。

②では、①で発生した将来時点のすべてのお金について、「現在時点の価値に割り戻す」ということをやっています。その理由は、「今日の100万円と1年後の100万円は違う」からです。投資に入れたお金は、時間が進むと予想収益率に従って増えるはずです。そのため、日付の違うお金の価値は異なることになります。すなわち、「お金の日付を特定の日付にそろえないとそもそも計算自体ができない」ということになります。そこで、「すべのお金の日付を一律で現在時点の日付にそろえている」というわけです。
例えば、予想収益率1%の投資をした場合、今日の100万円は1年後は101万円になるはずです。逆に言うと、1年後の101万円は今日の100万円と同じはずです。今日の100万円と1年後の101万円を合算したい場合には、そのままでは足し算できないので、基準日を今日にそろえて100万円+100万円=200万円として計算します。
このような理由から「予想収益率r%を使って、将来時点のお金を現在時点の価値に割り戻す」ということをやっています。

③は、日付を今日にそろえたお金を合算した上で方程式を立てて、解くということをやっています。

なお、③の方程式は、1変数のn次方程式(nの大きさは場合によります)で、普通に計算できるようなものではないのですが、EXCELにIRR関数というものがあり、比較的簡単な作業をするだけで予想収益率を算出することができますので、もしご興味がある場合には調べてみて下さい。

3.IRRとは?

上記で説明してきた予想収益率r%に相当するものをファイナンスの専門用語で”IRR(Internal Rate of Return、内部収益率)”と言います。最後にIRRについて概念の説明をしたいと思います。

まず、言葉の意味の説明です。IRRは、「コーポレートファイナンス(企業金融)という分野において、投資の意思決定を行う際の判断基準の1つとして登場する概念」になります。日本語では”内部収益率”となるのですが、この”内部”という部分については下記の通り読み替えるとわかりやすいのではないかと思います。

「”内部”=”社内で投資の意思決定を行う際に使う”」
⇒「”内部収益率”=”社内で投資の意思決定を行う際に使う予想収益率”」

すなわち、会社の中で、プロジェクトAとプロジェクトBのどちらに投資するか決めるために、それぞの予想収益率を求めてどちらがよいか判断する。IRR(内部収益率)とはその予想収益率のことである。ざっくり言うと、そういうイメージです。言葉の意味から、IRRは、1.及び2.で出てきた予想収益率と同じではないかというあたりがつくと思います。

次に、IRRの(教科書的な)概念としての定義ですが、簡潔に書くと下記の通りになります。

<定義>投資案件において、”将来の全てのキャッシュフローの現在価値の総和”が“(現在の)初期投資額”に等しくなる『割引率

わかりにくく感じると思うのですが、特に『割引率』という言葉にひっかかるのではないでしょうか。実は、この『割引率』はこれまでのお話で使ってきた『収益率』のことで、同じものを違うように呼んでいるだけです。

では、『収益率』と『割引率』はどういう場面で呼び名が使い分けられているのでしょうか。例えば、「『収益率』を1%とすると、今日の100万円は1年後に101万円になる」、「『割引率』を1%とすると、1年後の101万円は現在の価値で100万円になる」というように使われます。すなわち、将来価値を求める時は『収益率』、現在価値を求める時は『割引率』と呼ばれていますが、中身は同じものを指しています。

そこで、上記のIRRの定義を『収益率』をつかって解釈すると、次のようになります。

<解釈>投資案件において、“(現在の)初期投資額”が“将来の全てのキャッシュフロー将来価値の総和”に等しくなる『収益率

(”将来価値の総和”の部分ですが、当然ながら日付の違うお金は合算できません。あくまでも”バラバラに点在しているキャッシュフローのそれぞれの時点での将来価値の集合”というイメージでとらえて下さい。)

上記の解釈からも、IRRは、1.及び2.で出てきた予想収益率そのものであることが理解頂けるのではないかと思います。

なお、IRRについてさらに詳しく知りたい場合には、金融機関がネットに掲載している説明をいくつか読んで詳細な定義を確認したあとで、その他のIRRについて書かれた記事等を読んでみるのがよいと思います。

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FPです(ファイナンス修士/CFP認定者/FP1級技能士/宅建士)。 資産運用の観点から金融リテラシー向上に役立つ発信ができれば、と思っています。