ここでは、前回の記事でお話したグローバルサウスの台頭において大きな役割を果たす金融包摂のお話をご紹介したいと思います。
1.金融包摂とは何か
金融包摂とは、個人や企業が金融サービスを利用することと定義されています。より具体的に言うと、主として新興国において低所得世帯、零細企業、女性、その他の伝統的に排除されてきたグループを含む、金融サービスへのアクセスと利用を拡大することを指します。金融包摂と聞くと、世界銀行やマイクロファイナンスで有名なグラミン銀行を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在は携帯電話の普及を梃にして民間のデジタルバンクによる金融包摂も進んだりしています。(有名なところでは、著名投資家のウォーレンバフェット氏がNubankというブラジルのデジタルバンクに投資しています。)
以下では、マスターカードとAmericas Market Intelligenceが2023年に共同で出したレポートの内容に基づき(“The state of financial inclusion post COVID-19 in Latin America and the Caribbean: New opportunities for the payments ecosystem“)、ラテンアメリカの金融包摂の状況についてご紹介したいと思います。
2.ラテンアメリカの状況
ラテンアメリカでは、COVID-19の影響もあり、リアルタイム決済システムとデジタルウォレットが普及し現金依存が減少しました。その結果、地域全体の金融口座保有率は2017年の55%から2021年時点で74%に達しているそうです。リアルタイムのデジタル決済システムとしては、ブラジルの中央銀行が導入した“PIX”というものが有名なのですが、低コストの即時デジタル決済が実現したことで普通の人々の間にデジタル決済が広がっています。また、パンデミック中に政府が実施したデジタル支払いにより、新規の金融口座の保有者が大幅に増えたようです。さらに、Nubankのような携帯電話の普及を活用したデジタルバンクが登場し、初めて金融サービスを使用する人々の数が大幅に増えているようです。
一方で、依然として相当数の人口が口座を保有していないこと(2023年時点で21%が金融口座をもっていないとしています)、さらにはクレジットカードやローンなどの特定の商品を所有できるのは都市部に住む人口の特定の層に限られていること(2023年時点で58%がクレジットカードを所有しているが、そのうちローン、保険、投資商品を利用できるのは10人中3人のみとしています)等、取り組むべき重要なギャップもまだあるとしています。そうした課題はあるものの、地域全体で金融機関の数がほぼ倍増し、フィンテック企業が出現し、社会的な支払いがデジタル化され、消費者がデジタル決済に依存するようになる中、金融包摂はラテンアメリカ全体の成長にとって無視できない基礎的な柱になっているとしています。
ラテンアメリカは商品輸出に依存している国が多く、経済的に浮き沈みの激しい地域であり、さらに金融包摂であらたに信用にアクセスできるようになる人々は景気変動の影響を大きく受ける層になります。しかしながら、信用リスク管理を金融機関側で適切にできるのであれば、デジタル技術によって金融が新興国経済のフロンティアになり得るのでないかと思います。