ここでは、金融リテラシーの導入部分にあたるお話として、持家と賃貸について損得の観点から比べてみました。私の意見は、「どちらが得か損かは一概には言えない。いずれの場合も“効果的な資産運用ができているかどうか”が大切」ということになります。(なお、以下では経済的側面のみを取り上げており、その他の側面は捨象して議論しています。)
1.持家と賃貸の収支を比較する
持家と賃貸は下記の①と②の通りに整理できると思います。(話を見えやすくするため単純化している部分については、ご理解頂けますと幸いです。)
①持家:自分が不動産を購入して、それを自分が借りる
[収入]自宅の賃料+自宅の売却益
[支出]自宅の賃料
②賃貸:他人が不動産を購入して、それを自分が借りる
[収入]なし
[支出]自宅の賃料
上記の①と②の収支を比較すると、「持家の方が賃貸より得」となりますが、本当にそうなのでしょうか?例えば、下記の③のように”資産運用の要素”(下線部分)を追加して考えると、①と③の収支はかなり似てくるのではないでしょうか。
③賃貸:他人が不動産を購入して、それを自分が借りる。
自分は株式を購入して配当を得る。
[収入]株式の配当+株式の売却益
[支出]自宅の賃料
なお、株式をREITと読み替えても同じですし、もっと言うと自宅以外の不動産と読み替えても基本的には同じ構図になります。
2.(経済的側面から見た)持家と賃貸の本質的な違い
私は、”資産運用の要素”を考慮に入れることで初めて、(経済的側面から見た)持家と賃貸の本質的な違いが見えてくると思います。両者の主な相違点は、「持家の場合には、優遇された借入である住宅ローンを使い投資額を大きくすることで、自宅の売却益を大きくすることが可能」という点なのではないでしょうか。さらに、日本のように実質金利ベースでマイナスが続く国では、自国通貨建てで不動産価格は上がりやすくなりますし、借金は債務者に有利に働くという追い風も吹きます。(ただし、理屈としては、投資額の増加により売却益が大きくなる半面、売却損も大きくなるリスクはあります。)
では、上記の違いがあるから、「持家の方が賃貸より得」なのでしょうか?私の答えは、「どちらが得か損かは一概には言えない」ということになります。ここで、先ほどの①と③をあらためて比べてみます。例えば、③の株式がドル建てならば、どうでしょうか?①の自宅の賃料と売却益をドル換算した場合、米国株式のベンチマークであるS&P500をアウトパフォームすることはできるでしょうか?このように、ドル建てで見るという視点を入れてみると、「個々の事例について計算(税制優遇含む)してみないとわからない」ということが直観的にも理解頂けるのではないかと思います。
すなわち、「持家と賃貸の損得の比較」は、「自宅不動産とその他の投資対象(株式、REIT、自宅以外の不動産e.t.c.)のパフォーマンスの比較」と同義なのではないでしょうか。(ただし、実際には、不動産と株式等のリスクの大きさは違いますので、リターンのみで比べるのではなく、リスクの違いも考慮する必要があります。)
以上のような考えから、いずれの場合であっても“効果的な資産運用ができているかどうか”が大切なのではないかと考えています。
3.持家と賃貸について思うこと
新聞やテレビ等のメディアでマンション価格高騰や賃料上昇の話題をよく見かけるのですが、一歩引いて状況を冷静に考えることも必要なのではないかと思います。
ここ最近も、「インフレになるから今買わないとこれからもっと高くなる」、「家賃ももっと上がるから買った方がいい」、「住宅ローンは使わないともったいない」等の内容を見聞きすることが多くなっているように感じます。そうした発信に接する毎に、「人それぞれ考えや置かれた状況が違うのだから、持家でも賃貸でも自分にあった方を選べばいいのではないか」と思っています。そして、「たしかな判断を行うための基礎となるものが、金融リテラシーではないか」とも思うのです。
住宅は家計に占めるウェイトが大きく重要なテーマであるだけに、冷静かつ慎重に考える必要があると思います。例えば、大手メディアの情報を鵜呑みにしないで自分で市況に関する情報をより細かく確認してみる。(東京の新築マンションの平均成約価格がよく取り上げられていると思いますが、新築/中古、成約価格/在庫価格を区別するだけでも見える景色は変わってくると思います。)人生設計や資産形成の方向性という全体の枠組みを今一度考えてみる。そうしたことを行いつつ、持家と賃貸について「自分の場合はこうする」ということを決めていくのがバランスのとれた考え方ではないでしょうか。
もちろん、最終的にはすべての側面(住まいとしての条件e.t.c.)を考慮した上で何をどれくらい優先させるか総合判断で決めることになると思います。