ここでは、トランプ大統領の関税政策に端を発したトランプショックについて、全米株式に長期投資している立場から、私なりに考えたことをお話してみました。(未検証の仮説としてお読みください。)
1.トランプショックの解釈
トランプ大統領の関税政策により米国株式が下落しています。S&P500は、4月8日の終値では5000ポイントを割り込むところまで下落しました。4月9日の米国債の金利急騰を受け、トランプ大統領は相互関税の上乗せ部分の90日間停止(最低税率10%を適用)を発表しましたが、それと同時に報復措置を講じている中国に対しては税率を125%まで引き上げるとしています。米中貿易戦争に発展するおそれもあり、4月11日現在も予断を許さない状況が続いています。
①米国債市場の反応
米国債の先行き変動リスク(=先行き不安)をはかるMOVE指数という指標(株式市場のVIXに相当)があるのですが、これが4月9日の終値ベースでも120を超えて高止まりしており、債券市場は非常に不安定な状態のままです。経済合理性を欠く政策を実行しようとしている米国政府に対する信頼が揺らいでいる可能性も否定はできませんが、需給的要因もあり、現時点で原因は断定できないと思います。いずれにせよFRBは事態収拾に向けて動かざるを得なくなる可能性は高いのではないでしょうか。
支持者の歓心を買うという政治目的を優先した今回の強硬な関税政策については、足元をすくわれた市場関係者は多いようです。ここ最近債券や株式への投資をずっとあててきたビル・アックマン氏が自身のファンドの投資家へ謝罪をする等これまで好調だった人物もその中に含まれています。(当然のことではありますが、)私もトランプ大統領は関税政策をディールの材料としてちらつかせることに留めると思っていましたし、政治目的をここまで優先するとは考えてもみませんでした。
②トランプ大統領の政治戦略と誤算
トランプ大統領の頭の中にある最優先事項は、2026年の中間選挙だと思います。そうした観点からすると、「2025年中に株式市場に不評な関税政策を実施してしまい、あまり資産を持たない中低所得者の根強い支持層からの人気をかためる。そして、いったん低迷した株式市場については、2025年後半からテコ入れをして2026年に向けて相場を盛り上げていけばよい」という心積もりをしていたと推察されます。ところが、自ら考えてもみなかった米国債市場でのが起きて金利急騰が起きてしまい、あわてて一時中断ボタンを押したものの、選挙という目的からすると絶対はずせない対中強硬姿勢だけは取り下げなかったというのが真相ではないでしょうか。
2.今後の見立て
以下では、トランプ大統領、FRB、及び中国の3つの主体から米国株式市場の今後の見通しを考えてみたいと思います。
①トランプ大統領の中間選挙戦略
まずトランプ大統領ですが、政策遂行については朝礼暮改で不確かかもしれませんが、自己の政治的利益を最優先にすることは確実ではないでしょうか。そのため、2026年11月の中間選挙のスケジュールにあわせて、なりふり構わず景気を持ち上げようとしてくることは想像に難くありません。当然そこには、減税や規制緩和以外に、2026年5月で任期が終了するパウエルFRB議長の後任に自らに忠実な人物を任命することも含まれると思います。
②FRBの政策姿勢と財政的圧力
次にFRBですが、現職のパウエル議長は、自身の今後の歴史的評価を気にする(=インフレ抑制に失敗したアーサー・バーンズのようだと言われたくない)でしょうから、トランプ大統領の「金利を下げろ」というプレッシャーには安易に屈しないかもしれませんが、MOVE指数が現時点の120を超えた水準から更に上昇を始めていくような事態に直面した場合には、米国債市場の安定性だけは死守しようとすると思います。また、次のFRB議長はトランプ大統領の意向に忠実な人物が就任する可能性が高いことも考えると、(それが2025年か2026年かはわかりませんが、)FRBはどこかの時点でQT(量的引き締め)を停止する可能性はそれなりにあると思いますし、場合によってはQE(量的緩和)を再開する可能性すらもあるのではないかと思います。
③信用をめぐる中国の思惑
その一方で、トランプ大統領から仕掛けられた側の中国の動きはどうでしょうか。関税発動は、短期的には自国にマイナスになるが、長期的には(米国の信用失墜を通して)プラスに働くという認識を中国側は持っていると思います。そうであるならば、面子を失ってまでトランプ大統領と早い段階でディールをする可能性は高くないのではないでしょうか。国内経済の事情が許す限りにおいて、自国の信用(対グローバルサウス等)を相対的に高める持久戦に出るのが基本シナリオだと思います。そのため、米中貿易戦争のリスクは早期に解消することなく、くすぶり続ける可能性が高いと考えます。ただ、不動産バブル崩壊後の傷んだ国内の経済状況を踏まえると、激しい応酬は避けたいというのが本音ではないでしょうか。
以上を踏まえて、「米中貿易戦争の懸念はくすぶり続けるものの、トランプ大統領とFRBからのサポートに支えられて米国株式市場は2026年には上昇するのではないか」と考えます。
3.長期的なスタンス
最後に、「10年以上の長期の時間軸で全米株式やS&P500などの米国株式インデックスに投資して大丈夫なのか?」という論点を考えたいと思います。私自身の投資スタンスは、「たしかに不確実性があるものの、やはり人口・技術・資源など基礎的条件が優れているので、政治的リスクは引き続き引き受けながら、モニターしていく」というもので、トランプショック前後で変わりません。「今回のトランプショックは政治リスクが一部顕在化したものであり、国内の格差が埋まることがない以上アメリカのもつ政治リスクも解決することはなく存在し続ける。問題はリスクの有無ではなく、それが自分の許容範囲かどうかである」と私自身は整理しています。そして、たぶんに感覚的なものではありますが、傷ついた信用はすぐには回復することはないものの、長期的にはよい方向に戻る可能性は十分にあり、それは現職だけでなく次以降の大統領の任期なども含めた長期の時間軸の中で確認していくものであると考えています。率直に申し上げると、「10年以上先をあてることはできないので、自分の直感を信じて今後の事実で検証していく」そういうスタンスです。