C1.書籍紹介

本の紹介『人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小』

人口構成は経済を考える上で非常に重要な観点だと思います。ここでは、そうしたテーマについて参考になる本をご紹介したいと思います。

1.書籍詳細

書籍名:人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小
著者名:チャールズ・グッドハート、 マノジ・プラダン
発行元:株式会社日経BP、日本経済新聞出版
発売日:2022年5月

チャールズ・グッドハート氏は、イングランド銀行で政策委員をつとめた経済学者で、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの名誉教授。
マノジ・プラダン氏は、モルガン・スタンレーを経て、(ロンドンを拠点とする)マクロ経済リサーチ会社を創業したエコノミストです。

(なお、原著のタイトルは”The Great Demographic Reversal: Ageing Societies, Waning Inequality, and an Inflation Revival”で、発売日は2020年8月です。)

2.要約(ざっくり版)

この本は、「全世界という単位で、今後の経済をどう見るか?」について書かれています。主要なメッセージを一言でいうと、「人口構成の大逆転が近い将来にインフレ率と金利の上昇を引き起こす」ということになります。そして、その論旨としては、「世界の労働力供給量が物価の基調に大きな影響を及ぼす。これまでの30年間は供給過多であったためインフレが抑制されていたが、今後の30年間は世界の人口が高齢化するためインフレ率と金利上昇の圧力が高まるだろう」ということになります。

過去30年間に労働力供給量を著しく増加させた原因として、“グローバル化”と“世界の人口構成の変化”をあげています。“グローバル化”については、中国の台頭と東欧の世界貿易システムへの復帰を。“世界の人口構成”については、先進国において、生産年齢人口(15~64歳人口)が従属人口(=年少人口+老年人口)に比べて多くなってきたこと、及び働く女性の割合が増加してきたことを挙げています。

一方で、今後の30年間については、“グローバル化の減速”と“世界の人口の高齢化”によって、労働力供給量は減少していくとしています。“グローバル化の減速”については、中国の労働力供給量が減少する点や、高齢化している先進国において介護サービスを自国内の労働力に頼らないといけない点をあげています。“世界の人口の高齢化”については、世界的な従属人口(=年少人口+老年人口)の割合が転換点にあり、ほとんどの先進国や主要な新興国でこれからその上昇が加速していくと予想されていると指摘しています。さらに高齢化がすすむと介護に大きな労働力が必要となるため、他に割ける労働力がさらに減少するとしています。それらの結果として、労働市場が逼迫し賃金が上昇することで、インフレ率と金利上昇の圧力が高まると著者らは見ています。

(多くの先進国において見られる所得と富の不平等の悪化は、賃金上昇によって改善されると考える立場をとっています。)

また、高齢化が進んでいる日本で賃金が上がらなかった理由についても詳しく述べています。著者らの見解として、「これまで世界全体では労働供給量が増大しており、日本企業は(中国をはじめとする)海外へ生産拠点を移すことでそれを活用することができたため。すなわち、日本企業が利用可能な労働供給量は実際には増大していたため、(国内の労働力が減少していたにも関わらず、)賃金が上がらなかった」という趣旨の説明をしています。

なお、“自動化”や“高齢者の労働参加”や“インドとアフリカの若い人口構成への期待”等想定される主な反論に対しても回答を用意しています。(長くなるため、詳細については割愛したいと思います。)

3.感想

実際に、今後の30年間インフレと金利上昇の基調が続くかについては、インフレ圧力とデフレ圧力のバランスもあるので今の時点ではどちらとも言えないと思いますが、(コロナによる供給ショックが収まった後も)長期のトレンドとしてインフレ方向に進んでいく可能性は十分あるように感じました。

個人的には、“高齢化”と“脱炭素”がインフレ圧力となる一方で、(AIやロボットをはじめとする)“テクノロジー”や(インドやアフリカ等の中で成長の要件を満たした)“新興国”がデフレ圧力として相当程度作用するのではないかとも思います。

(当たり前の話ですが、)今後世の中がどうなるかについて自分なりの見立てを持っておくことは大切なのではないでしょうか。特に、物価や金利について大きな方向性を探っていくことは、地味ですが、株式や不動産等の資産運用においても効いてくると思います。

ABOUT ME
ダブルデッカー
FPです(ファイナンス修士/CFP認定者/FP1級技能士/宅建士)。 資産運用の観点から金融リテラシー向上に役立つ発信ができれば、と思っています。